ストア派について

ストア派における「自然」「宇宙」とは

ストア派の哲学は、自然と人間の関係を深く考察しています。

現代のニュートン力学や量子力学の視点から見ると、理解しにくい部分もあるかもしれません。しかし、当時の人々は、地球や自然に理性を見出し、その理性を共有する存在として人間が生きることを目指していました。

ただし、ストア派の言葉を読む際に、「自然」や「宇宙」が具体的にイメージしにくいこともあるため、今回はこれらの概念を整理してみたいと思います。

ストア派における「宇宙」

まず大まかなイメージを捉えることができるように図にしてみました。

ここからは、 図を作るときの参考にさせていただいた中澤務先生の解説を引用して整理していきます。

ストア派の価値観と自然学の重要性

ストア派の哲学者は、財産や地位などの世俗的なものを、人間が作り出した人為的なものとして軽視しました。そして、自然的なものを価値あるものとして、それに従おうとしたのです。それゆえ、ストア派の哲学では、自然世界の姿を解き明かすための自然学の研究が重要なものとなります。ー人生の短さについて 他2篇 (光文社古典新訳文庫) 中澤務 解説より

ストア派では、自然的なものを価値あるものとして、それに従おうとした

ストア派の哲学では、自然世界の姿を解き明かすための自然学の研究が重要だった

自然の中に理性を追い求めるために、自然学が重要だったということですね。

宇宙の構造とロゴス

さらに、ストア派の哲学が思い描く自然と宇宙の性質はこのようなものだったようです。

ストア派の哲学によれば、宇宙は、受動的な原理である物質と、そこに内在する能動的な原理であるロゴスからできています。ロゴスとは、宇宙を支配する理性的な力であり、神と同一視されます。ー人生の短さについて 他2篇 (光文社古典新訳文庫) 中澤務 解説より

宇宙は、受動的な原理である物質と、そこに内在する能動的な原理であるロゴスからできている

ロゴスとは宇宙を支配する理性的な力であり「神」

汎神論的特質: ストア派は、宇宙全体を神的なものと捉える汎神論的な立場を取ります。これは、神が超越的な存在ではなく、宇宙そのものに内在しているとする考え方です。この視点は、ストア派が自然と調和して生きることを重視する理由とも結びついています。

マルクス・アウレリウス『自省録』にも、神、宇宙、という言葉が頻繁に登場します。

ロゴスと運命

そして、その理性的な支配を、ストア派の哲学者たちは運命と呼びました。ー人生の短さについて 他2篇 (光文社古典新訳文庫) 中澤務 解説より

神と同一視される理性的な力による支配を運命と呼ぶ

四元素と宇宙の階層

ここの理解に苦労しました。

この神としてのロゴスは、物質の中に種子のように留まり続け、四元素(火、空気、水、土)を分化させます。球体をした宇宙は、四元素の比重に応じて階層化しています。最上層には純粋な火(エーテル)が円環運動をしています。これが太陽や恒星の世界です。これに対して、月の軌道を境界面とする月下の世界は、土で作られた大地の表面を水が覆い、その外側を空気が、さらにその外側を、純粋でない火が覆うという階層構造をしています。宇宙を支配する純粋な火は、月下の世界では空気と交じり合い、理性的な気体(プネウマ、ラテン語ではスピリトゥス)として、人間の中に取り込まれ、魂を形成します。ー人生の短さについて 他2篇 (光文社古典新訳文庫) 中澤務 解説より

神としてのロゴスは、物質の中に種子のように留まり続け、四元素(火、空気、水、土)を分化させる

球体をした宇宙は、四元素の比重に応じて階層化している

もう一度最初の図を貼り付けます。

まとめ

自然と宇宙は、ロゴスという理性的な力によって支配されるひとつのもので、人間もその宇宙的なロゴスを共有する存在です。

人間は魂の中にロゴスを宿しており、そのロゴスに正しく従うこと(すなわち自然に従うこと)が、正しい生き方だということになります。

現在の自然科学に照らして考えれば理屈は合わないわけですが、自然と人間というものの関係を考える上で意味深いものだと思います。

彼らが信じた宇宙の理性的な秩序、ロゴスは、私たちが日常生活で直面する複雑な問題に対しても道を示してくれますし、理性的な判断を重視することで、個人と社会の調和を目指すことができます。

また、ストア派は「自然に従う」ことの重要性を説きました。これは、現代の環境問題や持続可能性の課題に対するアプローチとしても有効です。 人間と自然とのつながりにおいて、新たな視点を提供してくれます。

最後に、宇宙とロゴスを共有しているという考えは、孤独を感じる時に大きな支えとなります。全ての人が理性を共有する共同体の一部であると考えることで、他者とのつながりを感じ、孤独を和らげることができるのです。

ストア派の宇宙観は、私たちにとっても深い洞察を提供し、より良い生き方を追求するための道しるべとなります。

参考文献


人生の短さについて 他2篇
セネカ 中澤務 訳
(光文社古典新訳文庫)