ストア派について

セネカとは?富とストア哲学の狭間で生きる術

今回は、代表的な3人の後期ストア派哲学者、マルクス・アウレリウス、セネカ、エピクテトスの中から、皇帝の顧問であり資産家、劇作家として名高いセネカをご紹介していきます。

富と権力の中で揺れ動くストア派哲学者

ストア派との出会い

セネカは、ストア派の哲学者として知られていますが、その人生は富と権力の中で揺れ動くものでした。彼がローマ帝国で最も裕福な人物の一人となった背景には、多くの興味深い側面があります。

約2000年前、紀元前4年頃、セネカはスペインのコルドゥバで生まれました。彼の父、大セネカは裕福で学識ある作家として知られていました。

ローマで学び始めたセネカの家庭教師として、父親は雄弁さで有名なストア派哲学者アッタロスを選びました。セネカは「教室を包囲」するほど夢中になって学び始めます。教師たちはセネカの自己啓発への取り組みを高く評価していましたが、哲学を好まない父親は、息子を積極的で野心的な政治家に育てようとしていることを知っていました。

療養のためエジプトへ

ローマで官職につくために、セネカは熱心に努力を続けていました。しかし、無理がたたったのか重い結核を患ってしまいます。自死を思うほど病状は悪化し、24歳から療養ためにエジプトに長期滞在することになりました。病気の症状に悩みながらも、エジプトで約10年間、セネカは執筆、読書、体力増強に励みます。エジプト滞在中、彼はナイル川の美しさやエジプトの古代文化に触れ、それが彼の哲学的視野を広げる助けとなりました。

政治の表舞台からコルシカ島へ追放

35歳でローマに戻ったセネカは、政治家としての道を歩み始めます。同時に、悲劇や慰めに関する作品も執筆しました。特に『マルキアへの慰め』は、彼の哲学的思索を反映した重要な作品です。

しかし、彼の人生は皇帝クラウディウスの即位により一変します。紀元41年、セネカは皇帝の姪ユリア・リウィッラとの不倫関係を理由にコルシカ島へ追放されました。追放中、彼は母親に宛てた手紙「母ヘルウィアへのなぐさめ」で慰めの言葉を綴り、また孤独な日々の中で哲学的思索を深めました。

ネロ皇帝の家庭教師兼顧問に

8年後、セネカは再びローマに戻ります。これは、後の皇帝ネロの母アグリッピナが、彼を息子の家庭教師兼顧問としたためです。これがセネカの人生の新たな試練となります。『人生の短さについて』はこのころ執筆されました。

54年、クラウディウス帝が養子ネロではなく実子ブリタニクスを皇帝にしようとしたとき、ネロの母アグリッピナはクラウディウス帝を毒殺し、ネロを皇帝に据えました。

この時期から、セネカはネロ皇帝の顧問として、宮廷や政界で最高の権力を持つ地位に就きました。最初の5年間は「ネロの五年間」として知られ、歴史家たちも認める善政の時代となりました。これは、セネカと彼の盟友であり、同じく教育係でもあった護衛隊長ブッルスの働きにより、ネロの政治が安定したためです。

しかし、ネロは後にローマ帝国史上最も悪名高く暴君的な皇帝となり、セネカの性格や忠誠心に疑問を投げかけるようになります。セネカの莫大な富は、主にネロに仕えていた時期に得たものでした。

ネロ皇帝から自殺を命じられる

最終的に、セネカはネロの命令により自殺を強いられます。ネロは、セネカが彼を暗殺しようとした陰謀に加担していると疑っていたのです。ずっと前から、このような日が訪れることを覚悟していたのでしょう。セネカは自らの死を受け入れ、冷静にその時を迎えました。嘆き悲しむ弟子や友人たちに最後までストア哲学を説き、最後の晩餐を共にし、平静さを保ちながら自らの命を絶ちました。紀元65年、セネカは64歳でした。

セネカの哲学とその影響

セネカの人生を通じて、ストア哲学は彼の心の支えであり続けました。彼は初期の教師であるストア派の哲学者アッタロスの影響を受け、カトーを崇拝しました。また、セネカはエピクロスの思想も取り入れ、他の哲学派からも自由に学びました。彼の著作は、運命の良い面と悪い面を受け入れ、切り抜けるための知恵を与えてくれます。

セネカの影響は後世にも及び、人文主義者のエラスムス、ルネサンス哲学者フランシス・ベーコン、思想家のパスカル、随筆家のモンテーニュなど著名な人物が彼の思想に触発されました。彼は哲学を通じて、どんな状況でも内面的な強さを持つことの重要性を説きました。

富とストア哲学

セネカは自らを「賢者ではない」と認識し、自身の不完全さを理解していました。彼の人生は、富と権力、野心、政治に満ちていましたが、同時に哲学と内省、自己認識の旅でもありました。彼の物語は、現代においても私たちに多くの教訓を与えてくれます。どんな状況に置かれようとも、哲学を通じてより良い人生を追求することは可能だということです。

セネカ 人生の短さについて 他2篇



人生の短さについて 他2篇
セネカ著
(光文社古典新訳文庫)

「人生の短さについて」「母ヘルウィアへのなぐさめ」「心の安定について」 セネカは他者への助言を得意とし、悲しみ、富、権力、宗教、人生に関する彼の言葉は今を生きる私たちの心にも強く響きます。ローマ帝国では、弁護士、元老院議員、財務官、法務官、そして皇帝ネロの顧問を歴任しました。セネカは人生、死、貧困、徳、欲望と快楽、そして自由について普遍的なメッセージを遺しています。

参考文献