私はしばしば驚きを覚える。だれかが時間を欲しいと言うと、求められたほうは、寛大にもいとも簡単に与えてしまうからだ。どちらも、時間が求められた目的は気にするが、時間そのものには目を向けない。時間は、まるで意味などないことのように要求され、安易に与えられる。人は世界で最も貴重なものを軽く扱っているのだ。形がなく、目に見えないものであるがゆえ、彼らは時間を、極めて安価で、いや、それどころかほとんど無価値なものだと見誤っているのだ。- セネカ『生の短さについて』
I am often filled with wonder when I see some men demanding the time of others and those from whom they ask it most indulgent. Both of them fix their eyes on the object of the request for time, neither of them on the time itself; just as if what is asked were nothing, what is given, nothing. Men trifle with the most precious thing in the world; but they are blind to it because it is an incorporeal thing, because it does not come beneath the sight of the eyes, and for this reason it is counted a very cheap thing—nay, of almost no value at all. – On the Shortness of Life: Seneca
あなたは最近、誰かに時間を求められたとき、どのように応じましたか？あるいは、自分が誰かの時間を求めたとき、その重みを十分に認識していましたか？
「どちらも、時間が求められた目的は気にするが、時間そのものには目を向けない。時間は、まるで意味などないことのように要求され、安易に与えられる。」セネカのこの指摘は、私たちの日常生活を鮮やかに映し出しています。
会議、約束、タスク—私たちは常に時間を切り分け、配分していますが、その時間自体の価値について深く考えることはあるでしょうか。「人は世界で最も貴重なものを軽く扱っているのだ。」この一文は、私たちに重要な気づきを与えてくれます。
時間こそが、私たちが持つ最も貴重な資源です。お金は稼ぐことができますが、失った時間を取り戻すことはできません。「形がなく、目に見えないものであるがゆえ、彼らは時間を、極めて安価で、いや、それどころかほとんど無価値なものだと見誤っているのだ。」ここでセネカは、私たちの価値観の盲点を鋭く指摘しています。
目に見えないものを軽視する傾向は、現代社会においてもなお強く存在しています。しかし、本当に大切なものの多くは、実は目に見えないのではないでしょうか。では、このセネカの洞察を踏まえ、私たちはどのように行動すべきでしょうか。
- 時間の使い方を意識的に見直す
- 誰かの時間を求めるとき、その価値を十分に認識し、感謝の気持ちを持つ
- 自分の時間を他者に提供するとき、その決定を慎重に行う
- 「忙しい」ことと「充実している」ことの違いを認識する
時間は確かに目に見えません。しかし、それは決して価値がないということではありません。むしろ、その見えない性質こそが、時間を最も貴重なものにしているのです。
セネカは紀元前4年頃、現在のスペインにあたるコルドバで生まれ、ローマ帝国の哲学者、政治家、劇作家として名を馳せました。ストア派哲学の代表的思想家でありながら、大資産家として富を築き、若い皇帝ネロの家庭教師を務め、権力の中枢にまで上り詰めました。この生き方は、しばしばストア哲学との矛盾を批判されました。しかし、実はそこに現代を生きる我々への大いなるヒントが秘められています。『人生の短さについて』や『怒りについて』など、彼の著作は今なお広く読まれ、富を手にしながら自分を見失うことなく、幸せと自由を追求する術を与えてくれます。
